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福岡地方裁判所 平成4年(わ)470号 判決 1992年10月21日

本店所在地

福岡市南区向野二丁目一四番二〇号

株式会社

ヘルシイハート

(右代表者代表取締役 生野武美)

本籍

同区大字塩原一三九四番地

住居

同区向野二丁目二四番八-七〇三号

会社役員

生野武美

昭和一六年八月一一日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官玉岡尚志出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社ヘルシイハートを罰金一〇〇〇万円に、被告人生野武美を懲役一年に各処する。

一  被告人生野に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社ヘルシイハート(以下、被告会社という。)は、福岡市南区向野二丁目一四番二〇号に本店を置き、食料品、化粧品等の販売を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人生野武美は、株式会社の代表取締役としての業務全般を統括しているものであるが、被告人生野は、株式会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、販売促進費等の架空経費を計上するなどの方法によりその所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年四月八日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五三三八万九〇三七円(別紙一修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月三一日、同市中央区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一二六九万四六三七円で、これに対する法人税額が四二六万八四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額二一三六万三〇〇円と右申告税額との差額一七〇九万一九〇〇円(別紙二税額計算書参照)を免れ、

第二  平成元年四月一日から同二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五二八九万四九五六円(別紙三修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一三〇二万八一六円で、これに対する法人税額が四〇一万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一九九六万六六〇〇円と右申告税額との差額一五九四万九六〇〇円(別紙四税額計算書参照)を免れ、

第三  平成二年四月一日から同三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四七七一万八二四二円(別紙五修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年五月三一日、前記税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二一七〇万六六五〇円で、これに対する法人税額が六八九万三九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一六六四万八四〇〇円と右申告税額との差額九七五万四五〇〇円(別紙六税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人生野武美の当公判廷における供述

一  同被告人の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏の同被告人に対する各質問てん末書

一  相場友江こと相場智子及び馬場千秋の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の脱税額計算書説明資料

一  収税官吏作成の「セミナーについて」、「消耗品費について」、「租税公課について」、「雑費について」及び「受取利息について」と題する各査察官調査書

一  検察事務官作成の調査結果報告書

一  福岡法務局登記官神野義視作成の商業登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

一  収税官吏作成の「販売促進費について」と題する査察官調査書

判示第一の事実について

一  収税官吏作成の平成四年三月一〇日付け脱税額計算書(自昭和六三年四月八日至平成一年三月三一日のもの)

一  押収してある確定申告書一綴(平成四年押第一三五号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  収税官吏作成の「未納事業税について」と題する査察官調査書

一  収税官吏作成の査察官報告書

判示第二の事実について

一  収税官吏作成の平成四年三月一〇日付け脱税額計算書(自平成一年四月一日至同二年三月三一日のもの)

一  押収してある確定申告書一綴(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  収税官吏作成の「雑収入について」と題する査察官調査書

一  収税官吏作成の平成四年六月一五日付け脱税額計算書

一  押収してある確定申告書一綴(前同押号の3)

(法令の適用)

被告人生野武美の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人生野の判示各所為は、被告会社の業務に関してされたものであるから、被告会社については、いずれも法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処すべきところ、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で、被告会社を罰金一〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の理由)

本件は、いわゆる代理店方式で健康食品等を販売している被告会社の代表取締役である被告人生野が、傘下の代理店を集めて行う研修会等の費用、各地域の責任者に支給する販売促進費等の名目で架空経費を計上するなどして、三事業年度に亘り合計約一億六〇〇万円余の被告会社の所得を隠蔽し、四二〇〇万円余の法人税を免れたという事案であって、会社設立当初から連続して三期に亘り計画的、継続的に行われていること、逋脱率が、最初の二期分についてはいずれも約八〇パーセント、三期通算すると約七四パーセントと相当高率であること等を照らすと、犯情は芳しくなく、国民の基本的義務である納税義務を故意に免れた点において強い非難に値する。

しかし、被告人生野は、本件摘発後は、その非を認めて調査に協力するなど反省の情が窺われること、逋脱税額はこの種事案としては必ずしも高額とは言えず、既に、被告会社において修正申告を済ませ、本税、重加算税、延滞税ともに納付済みであること等被告人らに酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮すると、被告人生野及び被告会社を主文の刑に処し、被告人生野については刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 井口修 裁判官 甲斐野正行)

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